「ちょうどいい鉈」がない!
キャンプで薪割りをする際、皆さんはどんな刃物を使いますか? 私は鉈です。
刃物として理にかなっていて使いやすいこと、質素で飾り気がないことなど、随所に日本らしい生真面目さが感じられるところに、とても魅力を感じています。
その一方で、好きだからこそ見えてくる「ここがもう少しこうだったら…」という不満もありました。
1.伝統的な鉈は、必ずしも薪割りに向いているわけではない
鉈は、バトニングなど衝撃を伴う使い方を何度も繰り返すと、目釘の部分から柄が折れてしまうことがあります。
また、鋭い刃はよく切れる反面、やや欠けやすいという一面も併せ持っています。
つまり鉈は、耐久性の面で、必ずしもキャンプ向きとは言い切れない部分がありました。
2.デザインが素朴すぎる
鉈は根っからの生活の道具であるため、どこまでも実用本意であり、全体のディティールはいまひとつ垢抜けていません。
道具には利便性だけでなく、愛着を持ってずっと大切に使い続けたいと思えるために、誰かと語り合えるような美しさが欲しいと思いました。
そこで、薪割りに特化した実用性と、ただ眺めるだけでも気分が上がるような「用の美」を兼ね備えた、「ちょうどいい鉈」を作ろうと思い立ったのです。
すべては快適な薪割り体験のために
1 .バトニングを極める
バトニングは本来、刃物にとって非常に負担の大きい作業。
そこで、「やろうと思えばできる」「何でもできる」ではなく「そのためにある鉈」を考えました。
薪の太さを選ばない絶妙な刃の長さ
鉈一本で、どんな太さの薪でもバトニングで割るためには、薪の頭に刃を食い込ませていった時、きちんと峰を叩けるだけの「飛び出し幅」が必要です。
そこで、刃渡りを146mmにしました。長すぎず短すぎない、程よい長さです。
強靭なフルタング構造
刃先からグリップエンドまでが1枚の鋼板から切り出されたフルタング構造であるため、非常に衝撃に強い作りになっています。鋼板の厚みが6mmもあるので、単に頑強であるだけでなく、手斧のように薪を「左右に押し広げる力」があります。
刃こぼれに強くメンテナンスが楽な二段刃
硬い薪の頭に刃を当て続けると、鋭すぎる刃はすぐに欠けてしまいます。
そこで、「クロヒモリ(黒火守)」はフェザースティック作りなどのブッシュクラフトしやすさよりも耐久性を重視し、あえて鈍角(30度)の二段刃にしています。
また、研ぎ直しながら末長く使っていくことを前提にしているので、丈夫な炭素鋼を使いつつも焼き入れ時にあえて硬度を上げすぎず、簡単に切れ味を復活できる硬さにしました。
2.力強く振り下ろせることを目指して
鉈は元来、ヤブ払いや枝打ちなどのように、加速をつけ振り下ろすという使い方も得意な道具です。
しかし実際のキャンプシーンにおいては、「手元が狂うと危ないから」という理由で推奨されておらず、鉈は本来の能力を発揮しづらい環境にあります。
そこで、鉈をきちんとコントロールできる構造を考えました。
手に馴染むグリップ(フィンガーチャネル)
ヒントになったのは、剣道家の竹刀の握り方でした。剣士は、打突の瞬間まで、そっと添えるように右手を握っています。脱力しているからこそ腕や手首が柔軟に使え、重い竹刀を素早く正確に振ることができるからです。
そこで、この仕組みを鉈でも再現できるよう、グリップに人差し指を引っ掛ける突起「フィンガーチャネル」を設けました。
これにより、握力に頼らず軽い力でしっかりグリップでき、すっぽ抜ける心配もなく、薪の頭に振り下ろすことができます。
刃が勝手に下を向く低重心設計(アール形状と四角い断面のグリップ)
「クロヒモリ(黒火守)」は全体が緩いカーブを描いています。このことにより、持った時に重心位置が下がり、意識せずとも常に刃が下を向くので、薪の頭の狙ったところにきちんとヒットさせやすくなります。
また、グリップの断面を丸ではなく角断面にしているのも、自動的に刃が下を向くための工夫です。
硬い地面でも使える「石突き」
薪割り台や地面ではなく、岩場や石の上で薪割りをした場合、勢い余って岩に刃を叩きつけてしまうことも。そんな時に刃が直接岩などに当たらないよう、先端に「石突き」を設けました。
軽すぎず重すぎない重量
振り下ろす時に遠心力を活かせるよう、手に持つと「お、少し重いな?でも重すぎることもないな」と感じるくらいの重量にしてあります(657g)。
眺めるだけでも気分が上がる「用の美」
黒染め
素材として選んだ炭素鋼のSK85は、包丁やナイフで使われている一般的なステンレスより硬く切れ味が良い一方で、素地のままだとやや錆びやすいという傾向があります。
そこで、サンドブラストと四三酸化鉄処理を組み合わせることにより、メッキや塗装を上回る強度の、マットな黒色被膜を形成しました。
酸化処理によってできた目に見えないほどミクロな穴が、防錆油(椿油)をよく吸い込むので、風合いの良さとメンテナンス性の高さを兼ね備えています。
また、使用するうちに少しずつ摩耗していくので、使い方の癖によって自分だけのエイジングが楽しめるのも黒染めの醍醐味です。
緻密で美しい木目の木製グリップ
グリップは、握り心地を左右する重要なパーツ。また、黒い炭素鋼の刃と天然木のコントラストは、見ているだけでもわくわくするもの。
そこで、木目の美しさと衝撃に強い緻密さを兼ね備えた樹種を選びました。
【ブビンガ】
緻密で強度があり、折れや裂けに対して粘りがあります。透明感のある赤褐色を呈することから、欧米ではアフリカンローズウッドと呼ばれることもあります。
近年は個体数が減り、規制によって入手が難しくなりつつある貴重な木です。黒い刃とのコントラストが美しい組み合わせです。
【樫(牡丹)】
樫は昔から、斧やハンマーなど、衝撃を伴う農具や工具の柄によく使われてきた硬木で、木質は非常に緻密です。
その中でも、断面にまるで大輪の花のような模様が入った個体を「牡丹」と呼び、製材すると不規則な縞模様が浮かび上がります。
その他の特徴
マグネットを利用したコンパクトで薄い「ひらくレザーシース」
表地にレザー、裏地にマグネットシートを使った「ガバッと開き、自ら刃に吸い付くシース」を開発しました。ほとんど刃と同じサイズで、非常に薄くコンパクトです。
着脱が容易な上、一般的なレザーシースのように湿気を含まないので、メンテナンスオイルと併用することで刃のサビを効果的に防ぎます。
椿油のメンテナンスオイル
炭素鋼は鋭利で丈夫な反面、ステンレスより錆びやすいという特徴があります。使い終わった後は、付属の椿油を刃に塗ることでサビを防止できます。
無駄なく使える「もくめん」の緩衝材
パッケージの中でナタを固定する緩衝材には、天然木から作られる「もくめん」を使用しました。
焚き火の着火剤として使用できるので、キャンプ場で無駄なく使えます。
以下は仕様です。ご了承下さい。
グリップの位置ずれについて
クロヒモリ(黒火守)は通常のナイフや包丁と異なり、本体(刃)と木製グリップを別々に作ってからネジで固定する方法で作られております。
本体は焼入れ・焼戻しの工程で1本1本微妙に変形するため、グリップとの間に若干の位置ズレが発生します。
木目の出方について
樫(牡丹)は生育過程で偶然できた色ムラを生かした素材ですが、その模様の出方は製材してみるまで予測できません。ムラがたくさん入るものもほとんど入らないものもございます。
スペック詳細
重量 657g前後(木製グリップの材質により変動)
全長 310mm(突起を含まず)
刃渡り 146mm(石突きを含まず)
刃付け 両刃
グリップ 樫(牡丹) ブビンガ